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 この違和感、名前をつけて説明してよ。








  + 君は誰 +








 コトの発端は何だったのか。
 分からないけれど、
 気付けば二人してどこか遠くへ行こうということになっていた。





「わぁー、きれいですねーカノンさん」



 咲き乱れるひまわり。
 ひよのが楽しそうに笑って言う。

 遠くへ、と言っても特にどこへ行こうとはなかった。
 ただ遠くへ行きたかっただけだから。
 そして気付けばこんな場所。
 ここはどこなのか、それも知れない。

 ただそこにはひまわりが一面に、
 滑稽なほどに広がっていて。

 手を繋いで ひまわり畑の中に入れば、
 それが辺りを覆い隠して少しだけ暗かった。











「本当だね。 こんなとこで迷子にならないでよ」
「子ども扱いですか? でもま、 カノンさんが探し切れないなら願ったり叶ったりですよ」
「何それ? どういう意味?」
「別にー」


 そう言って、唄を 口ずさむように。



 そして手を離して、
 この手に少しだけ冷えた風を与えて。






 「彼女」は幾つもの太陽の化身に 紛れた。









「…………ひよのさん」





 あぁもう 眩暈がする。


「ひよのさん、―――ひよのさん」
 さわさわ、ひまわりが音を立てる。
 カノンがゆっくりと歩き始める。





 横ではひまわりが、さわさわと
 何かを囁くように
 自分を嘲笑うかのように これによく似た 彼女のように。






 カノンが苛ついたように乱暴に嘆息する。

 そうだね、彼女にそっくりだよ。 だから紛れてもわかんないよ認めるよ。

 頭の中で色々と呟きながらずんずん歩き続ける。
 他に行きようがなくて真っ直ぐ歩く。
 迷わずに真っ直ぐに 進む 「彼女」の歩き方には、似ても似つかない なぜか。




 太陽の化身、それが幾つも並んで重なって、見下ろしている。
 その葉の 花の 隙間から
 本当の太陽の光がじりじりと

 熱い。
 暑い。

 眩暈がする。





「―――ひよのさん」

「…カノン さん?」



 鈴が鳴る。
 ひまわりのさわさわという嘲笑うかのような囁き。
 それと 頭の中の ぶつん  という 音。



 それがほぼ同時に響き、
 その直後にどさり、という音。

 「彼女」が慌てて駆け寄ってくる音。





 とりあえず、そこまで。















「……」
「カノンさん? 大丈夫ですか?」
 目を開くと、無数のひまわりが見下ろしている。
 その隙間から洩れる太陽の光が 眩しくて。

 カノンがひよのの膝枕を頭に横たわっているということを理解するのに、しばし時間を要して。





「変な人ですねぇ。どうしたんですか」
「それはキミだよ……自覚してよ」
「……????どうしたんですか…」

 か細い声。
 情けなくなるほどに、今にも泣きそうになるほどの、






 さんさんと照らす陽の光から目を覆う。
 そして数回 口を開けたり、閉じたりを繰り返して





 なんで欲しいのかなど分からない。
 なんで探すのかなど分からない。
 なんで不安になるのかなど分からない。

 分からないよ 何も。







 分かっているのは、

















 そうして
 やっと搾り出す 声。

















「I want to make everything of yours  are, ・・・mine・・・」









 ひよのはきょとんと膝の上にあるカノンの顔(手で覆われたまま)を見つめて。
 少しして笑う。

「今のは分かりましたよ」

「ん?それで、答えは?」


「良いですよ」










 一瞬、目を覆う手をどけようとして、すぐに止める。










 零れそうだったから。
 色々 と。



「……ありがとう」


「どういたしまして」










 一点の曇りのない笑顔。
 いつだって欲しい言葉をくれる 「彼女」。













 いつだって欲しい言葉を「くれる」

 「彼女」。



















 一体何が「ドウイタシマシテ」なのか



 分からずに

 でも泣けもせずに 悲しくはないから






 ただ カノンの喉から
 高らかな笑い声がこぼれた。

 悲しげ、に。


















 終











コクレアート・トロイムーンの夏版。(爆)
私的にハッピー。
カノひよはこれでハッピー。(…)