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 "それでも一緒にいたい"

 その思いで幸せになれるなら







  + 螺旋 +








「生まれ変わったら何になりたいですか?」



 夢のある言葉かもしれないけれど。
 現在を放棄するような・そんな諦めの言葉に聞こえた。



「…どうしたの」
「…どうしたのって 何がですか?」
「いや…どうして そんな調子でそんなこと訊くのかな・って思って」

 ふつうそういうのは目をきらきらさせて訊くことでしょ。
 付け加えてカノンが苦笑した。


 カノンの言葉に、ひよのは数秒、下を向いて。
 思い詰めたような瞳に、カノンが何か声を掛けようとしたとき。
 ついと顔を上げて、真面目な顔で口を開いた。

「カノンさん、もし私の姿が見えなくなったらどうしますか?」

「…え?」
「もしもの話です」
 目を丸くするカノンに、首を横に振りながらひよのが続ける。


「もし私に触れられなくなったらどうしますか?」


「もし私の声が聞こえなくなったらどうしますか?」


「もし私に逢えなくなったら どうしますか?」


 まるでもうすぐ、
 そのときが訪れる・そうとでも言うように。
 真面目な顔で尋ねるひよのに、カノンが困ったように言葉を捜す。

「ひよのさん」
「…」
「もうすぐいなくなるの?」
「…………」

 だからあんな、
 生まれ変わったら・なんて

 現在を諦めたようなことを訊いたの?




「どうするって…どんな言葉が欲しいの」
「…分かりません」
「そうなったら僕は死ぬ・そう言えば満足する?」
「………たぶん」
「………じゃあキミ、満足できないよ」
「…こういうときは嘘でも言ってみましょうよ」

 微かに笑いながら言うカノンに、ひよのは呆れたように嘆息した。





 私の姿が見えなくても。
 私の声が聞こえなくても。
 私にその手が届かなくても。

 つまり

 私に逢うことが出来なくても。





 私のことを想ってくれますか?




 そう訊ければ良かったのに。
 寸でのところで首を擡げた自分の臆病な心に、苦笑する。



「じゃあ逆に、キミはどうなの」
「え?」
 ひよのが黙り込むのを見ると、今度はカノンが尋ねた。

「僕に逢えなくなったら…どうするの?」


 僕がどこかに行ってしまったら。
 もう逢えなかったら。




「もう諦めて、生まれ変わった先のことを夢見ることを始めちゃうの?」


「……」
 その言葉に胸を突かれたことが、答えのようなものだった。


「キミがどこに行っちゃうのかは知れないけど。
 逢えないってことで、きらいにはなれないと思うよ」


 そう言って、頷く。
 優しい顔で。


「………嫌ってくれれば、良いのに」
「…」
「嫌ってくれれば、私のことなんて忘れてくれれば、…良いのに」


 声が掠れたのは、
 言葉が気持ちに追いつかなかったから。
 伝えたいことが、もっとたくさんあるのを 足りない言葉が知っているから。



「生まれ変わっても僕になりたい。 でも僕が生まれ変わったとき、キミがキミに生まれ変わってるとは限らないだろ」
「………」
「だから今…」
「もう良いです」
 カノンの言葉を遮り、俯いて首を横に振る。そしてそのままゆっくりとカノンの肩に頭を置いた。
「…?」
「カノンさんなんか、大嫌いです」
「……そっか、ありがとう」
「どうしてありがとうなんですか」
「愛の告白もらっちゃったから」
「全くもう…バカですかあなたは…」
「そうかもね」

 笑いながらそう言うと、そのまま動かないひよのの頭をぽんと叩く。


「生まれ変わったら何になりたい?」
「……私の答え、予想できますか?」
「きっとね」




 いつか逢えなくなるときがきても。
 いつかこの視界から相手の姿が消えても。

 それだけで、想いを次に傾けることは出来ない。
 繋いでしまった想いは、同じものはここにしかないのだから。




 今度生まれたらきっと惹き合うこともない。

 今ある心でこの想いを使い果たしてしまうくらい、
 今がこんなに愛しいから。











 終







ソースウィート。蜂蜜級の甘さ。
生まれ変わっても一緒にいたい・という話にしようと思ってたんだよね。
でも勝手にこんな風に喋り出しちゃった。
私の中の二人はきっとこうなんだろうなぁ。