いったい何と何が大切で。
+ 遊園地 +
色とりどりのイルミネーションは星の瞬きに変わり、人々の喧騒は闇に沈み。
今あるのは二人の響く靴音と、微かな息遣いだけ。
「夜の遊園地もなかなかに素敵ですねぇ」
「そうだね」
「そうだね、って…カノンさん、遊園地遊びに来たことあるんですか?」
可笑しそうに言うひよのに、カノンもまた苦笑して首を振った。
「そういえば遊びに来たことなんてないね。 ひよのさんは何回も来たの?」
「まぁ、私もそんなにたくさん遊びに来たってわけではないですけど…」
「友達いなそうだもんね」
「死にたいんですか?」
「キミになら喜んで」
「………」
笑顔でさらりとのたまうカノンに、ひよのもヤレヤレと首を振って嘆息した。
「でもひよのさんて、学校にしろ公園にしろここにしろ…昼と夜とで雰囲気のギャップが激しいとこ好きだよね」
「あ、そういえばそうですねぇ」
「ひよのさん自体、ギャップ激しいからね」
「そうですか? いつといつとで?」
「いつと言うより…内側と外側とで、かな」
例えば。
黒い自分と、白い自分。
演じているわけではないけど。
隠しているわけでもないけど。
「そんなの誰だってそうじゃないんですか?」
「キミは特別激しいと思うよ」
それはたぶん、無自覚で、無意識。
誰の目にはこうありたいとか、
誰にはこう言う部分を見せたくない、とか
そういうものでもなくて。
簡単なこと。
弱みも、痛みも。
決して人に見せない。
「そうですか? 特に自分では何とも思いませんが」
「はは。 それがキミの一番怖いところだよ」
憧れるほどに。
憎らしいほどに。
眩しい。
「でもそれを言うならカノンさんもですよ」
「ん?」
「ギャップですよ」
「そうかな」
首を傾げるカノンに、ひよのは靴音をこつ、こつと大げさに響かせながら。
「えぇ。 そうですねぇ…ちょうど、この遊園地みたいです」
「?」
寂しさも。
暗闇も。
静けさも。
永遠と思える孤独も。
隠すことなく、闇に沈んで見せる。
痛々しいほどの静けさを、音を立てて抗おうともせずに、ひっそりと。
見上げれば星があるのに。
なかなか気付かないほどに、その孤独にじっと耐えて。
本当は耐えられるはずなんてないのに。
それでも、夜が過ぎれば。
そんな想いなど、寂しさなど微塵にも感じさせずに。
忘れたふりを本当に上手くして見せる。
胸にあるものを全部、上手に閉まって笑って見せる。
夜なんか来るなと、報われない想いを必死で願いながら。
胸が詰まる、切なさ。
似ているけれど、ちっとも似ていない。
夜に勝ちたくて、夜など知らないふりをする自分と、
夜が嫌いだから、必死で忘れようと笑っている彼と。
ふと感じていた、小さな疑問。
「どうして、私とカノンさん、いつも一緒にいるんでしょう…と、思ってました」
「過去形?」
「…そう、ですね」
『ひよのさんて、学校にしろ公園にしろここにしろ…昼と夜とで雰囲気のギャップが激しいとこ好きだよね』
だって、居心地が良いから。
甘えではなく、ただそれだけ。
反発しそうでも、反発するはずはなかったのだ。
夜から逃げようと必死で足掻いている二人だから。
ひよのは小さく微笑い、首を傾げて。
息を吸い込み、星空を見上げた。
彼とは違い、星を感じる余裕はあると信じたくて。
彼に星の存在を、伝える立場でありたかったから。
終