04


 いったい何と何が大切で。








  + 遊園地 +








 色とりどりのイルミネーションは星の瞬きに変わり、人々の喧騒は闇に沈み。
 今あるのは二人の響く靴音と、微かな息遣いだけ。



「夜の遊園地もなかなかに素敵ですねぇ」
「そうだね」
「そうだね、って…カノンさん、遊園地遊びに来たことあるんですか?」
 可笑しそうに言うひよのに、カノンもまた苦笑して首を振った。
「そういえば遊びに来たことなんてないね。 ひよのさんは何回も来たの?」
「まぁ、私もそんなにたくさん遊びに来たってわけではないですけど…」
「友達いなそうだもんね」
「死にたいんですか?」
「キミになら喜んで」
「………」

 笑顔でさらりとのたまうカノンに、ひよのもヤレヤレと首を振って嘆息した。
「でもひよのさんて、学校にしろ公園にしろここにしろ…昼と夜とで雰囲気のギャップが激しいとこ好きだよね」
「あ、そういえばそうですねぇ」
「ひよのさん自体、ギャップ激しいからね」
「そうですか? いつといつとで?」
「いつと言うより…内側と外側とで、かな」



 例えば。

 黒い自分と、白い自分。


 演じているわけではないけど。
 隠しているわけでもないけど。



「そんなの誰だってそうじゃないんですか?」
「キミは特別激しいと思うよ」



 それはたぶん、無自覚で、無意識。

 誰の目にはこうありたいとか、
 誰にはこう言う部分を見せたくない、とか
 そういうものでもなくて。

 簡単なこと。
 弱みも、痛みも。

 決して人に見せない。





「そうですか? 特に自分では何とも思いませんが」
「はは。 それがキミの一番怖いところだよ」

 憧れるほどに。
 憎らしいほどに。




 眩しい。








「でもそれを言うならカノンさんもですよ」
「ん?」
「ギャップですよ」
「そうかな」
 首を傾げるカノンに、ひよのは靴音をこつ、こつと大げさに響かせながら。

「えぇ。 そうですねぇ…ちょうど、この遊園地みたいです」
「?」





 寂しさも。
 暗闇も。  静けさも。


 永遠と思える孤独も。




 隠すことなく、闇に沈んで見せる。


 痛々しいほどの静けさを、音を立てて抗おうともせずに、ひっそりと。





 見上げれば星があるのに。
 なかなか気付かないほどに、その孤独にじっと耐えて。
 本当は耐えられるはずなんてないのに。





 それでも、夜が過ぎれば。
 そんな想いなど、寂しさなど微塵にも感じさせずに。
 忘れたふりを本当に上手くして見せる。




 胸にあるものを全部、上手に閉まって笑って見せる。
 夜なんか来るなと、報われない想いを必死で願いながら。







 胸が詰まる、切なさ。
 似ているけれど、ちっとも似ていない。

 夜に勝ちたくて、夜など知らないふりをする自分と、
 夜が嫌いだから、必死で忘れようと笑っている彼と。








 ふと感じていた、小さな疑問。
「どうして、私とカノンさん、いつも一緒にいるんでしょう…と、思ってました」
「過去形?」


「…そう、ですね」







『ひよのさんて、学校にしろ公園にしろここにしろ…昼と夜とで雰囲気のギャップが激しいとこ好きだよね』






 だって、居心地が良いから。





 甘えではなく、ただそれだけ。
 反発しそうでも、反発するはずはなかったのだ。




 夜から逃げようと必死で足掻いている二人だから。





 ひよのは小さく微笑い、首を傾げて。
 息を吸い込み、星空を見上げた。


 彼とは違い、星を感じる余裕はあると信じたくて。
 彼に星の存在を、伝える立場でありたかったから。











 終







ちょっと穏やかにしてみた。