03


 たまに使用不能、アメとムチ。








  + 鬼 +








「サキちゃん!」
「何よ、幹久君なんて…ッ」
「僕の話を聞いてくれ!」
「いつもこう!…ねぇ、一体あなたにとって私って何なのよ!?」
「違うんだ…僕は、そんな…」
「もう駄目…もう信じられない!」
「待って!待ってサキ――」
「…何やってるんですか、カノンさん」
「へ?」






 真に迫った演技で昼ドラか何かの台詞を叫んでいたカノン。
 あまりに夢中になっていたが、ここは新聞部室であって。
 ひよのが何とも言えない表情で佇んでいるのを確認し、カノンはコホンと咳払いをした。

「ま、座りなよ」
「バカですか、あなたは」
 ジト目で見下ろしてくるひよのに、カノンが涼しい顔でこめかみに指を当てる。
「んー、ひよのさん、キミは何を見たのかな?」
「言えません」
「そりゃまたどうして」
「哀しみが増しますから」
「さすがひよのさん。 痛みを与える言葉をよく知ってるね」
「で、何なんですか、今のは」
 カノンに向かい合う形で椅子に腰を降ろし、ひよのが無表情で続ける。
「忘れてくれない?」
「すぐに忘れるにはなかなか強烈だったもので」
「へぇ、そんな強烈だった?」
「……あなたなら別に何でもない行動のような気がしてきました……」
「だろ?だから忘れてよ」
「カノンさん、もしかして昼ドラで日本語の勉強とかしてた時代があったりなんかしたんですか?」
「だから忘れてって言ってるのに……なんでそんな突っ込むかなぁ」


 はぁあと大げさに嘆息するカノンに、ひよのが微妙に視線を逸らした。

「ああいう…男女関係がお好きなんですか?」
「へ?」


 我ながら恐ろしく間の抜けた声だったとカノンが自分で感心する。
 そんなカノンには一切お構いなしに、ひよのが真剣な表情でずずいと迫った。

「カノンさんは昼メロちっくな恋仲をご所望なのですね??」
「……ひよのさん…?」
「私…昼メロはちょっと苦手なんですけど…」
「いや…だからね?ひよのさん、僕は別にそんな…」

 少し危ない(色々な意味で)空気が流れてきたのを感じてか、カノンが椅子から立ち上がり、俯いたままのひよのの傍へと歩み寄る。

「わかりました…『私と』昼メロちっくなんて全然望んじゃあいないんですよね」
「…もう。 今度は何言うんだ」
 あまりの意味不明な言動に焦れて、カノンが少し声を荒げる。
 すると俯いたままだったひよのがきっ!と顔を上げて言った。
「だって!! 昼メロちっくはラザフォードさんとやりたいって思っておられるんでしょう!?」
「!?」
「ひどいです…カノンさん、前 僕にはキミだけだよ、ひよのさん… なんて言ってたのに!!僕にはキミだけだよ…って……」
 ご丁寧に台詞をカノンの口調をまねて(ひどく大げさに) 反復するひよの。

「な!?そうだよ!僕にはキミだけだって…」
「それなのに!あんな見てくれも外見も中身も寒そうな男なんかに!!」
「いや、見てくれと外見って同意語だから…てかまずは僕の話を聞いてよ、ひよのさん!!」
「もう嫌です!!もう信じられません!!!」
「ひよのさん!!」
「カノンさんのバカチンーーーー!!!!!」






 伸ばされたカノンの手を払い、バンッと机を叩いてひよのが部室を飛び出した。
 ばたばたとうるさい足音が放課後の人少ない廊下に響いているのを感じながら、カノンは椅子にへたり込み、突っ伏した。
































「…っての!どうですか!?」
「あんた馬鹿だろ」
「んな!私が一生懸命書いたシナリオを・・・!」
「大体何に使うんだよ。 んでもって何でカノンは最初独りで昼ドラの二役演じてたんだよ」
「それは彼がカノンさんだから、という理由ですべて片付きます!」
「…バカやってないで仕事しろ」
「はーい。 あ、でも鳴海さん、カノンさんと私が共演だったのがお気に召さないんですよね」
「何を言ってる…」
「大丈夫ですよ、続編は『ヒルベルトに愛想を尽かした結崎、鳴海弟と出遭う』ですから!!」

「………………………そうか」
「をを!ちょっぴり期待、天使の指先!!?」
「あおり名で呼ぶな」







 今日も新聞部は一面お花畑。











 終







バタリ。
何が鬼かって、そりゃあ…!!!!