不器用センス。




「……暑っ、…」

 少し湿気の多い、じめじめする空気は太陽の熱で上がり、ムシムシと気温が上昇する。
 何故かクーラーを付けたがらない自由気侭な部長のおかげで。
 こうやって暑い中、照りつける太陽の下で、今日も何も変わらぬまま。


「鳴海さん、仕事ちゃんとして下さい」
「仕事って言ったってただの荷物運びじゃないか。」
「ひよのちゃんの苦労を失くすという立派なお仕事です。」

 「誰が」と殆ど疲れきった声を出しながら軋むパイプ椅子へ腰を下ろす。
 額に手で触れれば其処はもう汗びっしょりで。雨どころか雲の気配も微塵も見せない快晴空にひとつ、溜息を落とした。
 微妙な距離感を保ちつつこの部屋の主である彼女に視線を渡せばその後姿は小さくよろめき
 それでも何か、仕事、というものに専念して此方の視線さえ気付きはしない。


 殆ど呆れたように、暑くないのか、と問うてみる。勿論答は暑い、の二言だったけれど。
 ならばクーラーを付ければ良い、と何度目かの交渉に出ればそれは嫌だ、なんて。我侭にも呆れが出る。
 変な処で意地を通す気侭で我侭で遠慮知らずで、物好きなその女は。
 時に此方を向いては手伝ってください、とは言うけれど。本当は俺が手伝う暇も、手伝う間もなく総てを片付けてしまっていた。
 だから、何もすることはなくて。
 逃げ出したいと思えばいつだってこの部屋から抜け出せるのに、いついてしまうその理由は何だろう。
 答は判っている筈なのに、無性に、他の答が、欲しくなった。






 だって、余りにも、率直過ぎるだろ。
 俺が、あんたを好きだなんて。






 頬杖をついて前を見上げて、視線の先にはいつもあんたが居るというのに。
 あんたはいつも気付いてるようで気付いてない、だけど本当はきっと気付いてる笑顔を見せてくるから。それがまた判らなくさせて。
 その意地の悪い性格からか、あんたは自分のことを滅多に話そうとはしない。
 ついさっきまで隣にいたかと思えば、今のような曖昧な位置に立たされて。だから、苛立つのだろう。


 別に、あんたに振り向いて欲しい訳じゃない。    なんて嘘だ。
 あんたが微笑ってくれれば、とか、幸せなら、とか。俺はそんなに聞き分けの良い人間で居るつもりはない。
 欲しくない、なんて、嘘だ。嘘に決まってる。…欲しいに、決まってる。
 だけどあんたは微笑って、出来るものならなんて言いやがる。馬鹿にしてる、それも判ってるのに。嗚呼、だから苛立つ。


 苛立つ、ムカツク。
 心が、感情が、捕われる。言い表せない気持ち。
 如何したら 開放される?


 如何したら こんな想いは、いつまで続く?


「…………」
「…………」

 後姿を見詰めたまま。彼女が不意に作業を止めた。だけどその真意を聞く気にもならず、ただ見詰める。
 汗ばんだ肌が太陽に照らされて輝いて見える。初めて薄茶の髪が光に透けると黄金色になるのだと知った。
 暑さに眩暈がする、こんなにも感傷的になるのはきっと、照り付ける太陽の所為。

「鳴海さん」

 声と同時に顔が振り向く。視線を合わすのは恥ずかしく、悟られぬよう静かに眼を逸らした。
 スタスタと軽やかに足音を立てて、向かい合わせの同じくパイプ椅子に座る。目線を合わしにっこりと微笑んだまま 彼女は言った。

「明日、デートしません?」
「は。」

 何なら今からします?でーと。愉しそうに声を上げながら微笑うひよのに何故か遊ばれていると感じ 誰がとつい悪態を付いてしまうのは何も今に始まったことじゃない。
「んま。ケチんぼですね。明日から夏休みなんですし、気晴らしにパーっと映画でも…」
「一人でいけ」

 心は、天邪鬼、だ。
 心はこんなにも騒ぎ立てるのに。最後の理性がそれを許さない。だってこれを受けてしまったら
 自分は一生、この女に勝てない気がしたから。


 欲しい、とは絶対口にしない。言ったってあんたはくれないことを知ってるから。
 虚しいお預けをくらうくらいなら高望みはしない。

「…夏、ですねぇ。」
「ああ」
「暑いですね。」
「ああ。」
「鳴海さんと出逢ってどれだけの時間が経ったんでしょう。」
「…さぁ」

「…言ってくれないんですね。貴方は。」
「……お互い様、だろ?」



 好きだ、とはお互い、口にしない。きっと、ずっと。




「……だけど」
「?」




「…欲しい、とは言ってやるよ。あんたを。」




「暑さで脳ミソやられたんですか」
「まぁな。」



 こんなこというのは自分だって信じられないくらいなんだから。





「…でも、まぁ」
「あ?」
「…それも、お互い様ってことで。」
「……意地っぱりだな」
「お互い様です」


 帰るか、と席を立った。つられて立った彼女が「やっぱり明日、どっか行きましょうよ」と言ったので
 襲っても良いなら。と軽く微笑った。
 馬鹿らしいと思いながらもこの曖昧な距離感から抜け出せないで居る。




 想いは何処に馳せればあんたに届くんだろうとか思ってみたり。
 如何しようもなくらいあんたを求めたり。




 めんどくさいから全部、真夏の暑さの所為にした。







                  END.




 



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高岡結羅さまのサイトさまから強奪して参りました〜!!(おい)
ちっくしょう!(叫) こんなに素敵な文が書けるなんて反則だーー!!!
鳴ひよ〜!やっぱいいですこの二人vv特に弟くん、やっぱりひよのさんじゃなきゃ駄目って感じがするよ。

常に上位にいるひよのさんも素敵ですがv(むしろ愛) ゆらさんの書かれる鳴ひよはすっごく弟くんが格好よいのですよ!!くそー弟のくせに・・・(何故)
「暑さで脳ミソやられたんですか」「まぁな。」
この会話!!!!素敵!!ステッキーー(落ち着け)こういう淡々とした会話が本当にツボなんですよ!ゆらさん・・・なんてニクいあんちくしょうだよ・・・!!ハァ。(感嘆のため息)
しかも・・・しかもしかも!!「襲って良いなら」って・・・!!きゃー(黄色い声)こんのぉ破廉恥仮面がっ!!弟のくせに!!
・・・はい、大変失礼しました・・・
この素敵過ぎる残暑お見舞いで、また残りの夏も妄想に不足せず過ごせそうですv(腐った夏だなぁオイ)
ではでは!本当にありがとうございました〜vv

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