虚構
 

「魂の価値はなにできまるとおもう?」
「さあ」
尋ねてきた解放軍リーダー殿に、ルックは本から視線をあげずにこたえた。
彼がとつぜん意味のわからないことを言ってくるのはいつものこと。
ルックは眉ひとつ動かさないままページをめくった。
解放軍リーダー、ヒスイは、ルックの隣で約束の石板にもたれかかったようだった。
「ルック」
「なに」
「昨日、ちいさい子どもにお父さんを返して、って言われた」
「ふうん」
「この前の戦で父親が死んだそうだ」
「そう」
こたえて、ルックはまたページをめくる。
隣にいるヒスイの顔は見ない。
おそらく、なんの表情もうかべていない。
だから見ない。
「ルック」
となりから抑揚のない声。
「なに」
ルックはやはり本から顔をあげずにこたえる。
「魂の価値はなにで決まるとおもう?」
2度目の問いかけ。
ルックは本から顔をあげてとなりにいる少年にみどり色の目をむけた。
思ったよりも近くにヒスイの赤茶色の瞳がある。
「さあ」
同じこたえをかえす。
そうして、邪魔、と言おうとするとヒスイは立ち上がって、
「また明日」
と、背中を見せて歩き去った。
ルックは本に視線をもどした。



「あげるよ、ルック」
「なにこれ」
「沈丁花」
「ぼくにどうしろっていうのさ」
「さあ?」
ヒスイはやけに楽しそうな顔で、ルックに手折ってきたらしい沈丁花をおしつけてくる。
とくに意味もなくルックは枝を持ってまわしてみた。
枝先についた紅紫色と白のひかえめな花が、可愛らしくくるくるとまわる。
それを見て、ヒスイが声をあげて笑った。
「気に入った?」
「べつに」
くるくるくるくる。
ルックのてもとで花がまわっている。
「じゃあね、ルック」
そう言ってヒスイはルックに背をむけた。
とおくなる背中。
くるくるくるくる。
ルックのてもとで花がまわっている。



「夜中にいきなり来るのやめてくれる?」
寝ていたところをしつこいノック音で起こされた。
眠たい目をこすりながらドアを開けると、そこには予想どおりの相手。
「なにか用なの、ヒスイ」
尋ねると、ヒスイは無言で部屋に入ってきた。
ルックはため息をついてドアを閉める。
「なにか用なの」
もう一度尋ねると、ヒスイは振り返った。
無表情。
「花」
「は?」
「花」
ヒスイは視線を本棚のうえにおかれたコップへ移す。
水の入ったコップのなかには、今日の昼にヒスイからおしつけられた沈丁花。
ああ、とルックは声をあげた。
「それがどうかした?」
ルックの問いにはこたえず、ヒスイは本棚へと足をむける。
コップに手をのばすと、ヒスイはそのなかから沈丁花をぬきとった。
「枯らさなかったのか」
と、彼は言った。
「半日で枯れるわけないじゃない」
ルックはヒスイの背中に返す。
「ルック」
「なに」
ヒスイの表情が見えない。
おそらくなんの表情もうかべていないとルックはおもう。
だからまわりこんで彼の表情を見たりしない。
「魂の価値はなにできまるとおもう?」
ヒスイが問うてくる。
「さあ」
ルックはこたえる。
ぱさ、と軽い音をさせてヒスイが手に持った沈丁花を床におとした。
「ルック」
「なに」
「この間、ちいさい子どもにお父さんを返して、って言われた」
「聞いたよ」
「この前の戦で父親が死んだそうだ」
「聞いたよ」
「ルック」
ヒスイは振り向かない。
「彼が死んでぼくが生き残る理由はなんだとおもう」
「君が解放軍のリーダーだから」
ルックはこたえる。
ヒスイは振り向かない。
「彼とぼくの魂の価値はちがうとおもうか?」
「そんなの知らない」
「ルック」
「なに」
「ぼくの命と自分の命、君はどっちを優先させる?」
「君。ぼくはレックナートさまから君を守るように言われている」
ぐしゃり。
というのは、ヒスイが床に落ちた沈丁花を踏みつけた音。
「君にとって、すべてのものは等しく無価値だと思ったのだけれどね」
言って、ヒスイが振り向く。
ルックはすこしだけ首を傾げる。
「馬鹿じゃないの」
無表情なヒスイを無表情でルックは見返す。
「花、枯らせてほしかった?」
と、ルックが聞くとヒスイは肩をすくめてこちらに歩いてきた。
彼はルックのとなりを無言でとおりすぎてドアの前に立つ。
ルックは振り向いてヒスイの背中に、
「花言葉は不滅っていうんだってね、沈丁花って」
言うが、ヒスイは顔をむけない。
「花、枯らせてほしかった?」
ヒスイが振り向く。
「おやすみルック」
と、言ってヒスイはドアを開けて部屋から出て行った。
ばたん、とドアが閉まる音。
ルックはその場にうずくまった。
くらい視界の端に踏みつぶされた沈丁花がうつる。
目がいたい、とルックはおもった。
おそらく。
沈丁花を自分が踏みつぶしてやればよかったと思うのは気のせいではなく。
おそらく。
なにを期待していたのだろう、とつぶやいた言葉はヒスイに向けてではなく自分に対して。
けれどそれを認めるのは気持ちが悪いしなにより腹がたつのでただ深いところにおしやる。
ひゅう、と喉の奥がなった気がした。
ルックはうずくまったままちいさな泣き声をあげた。

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運命の力で(言っとれ)またしてもアヅハアヤ様のサイト様でキリ(ゾロ)番の3333ヒットをゲットさせて戴きました〜!!(勝誇)
またしても図々しくもリクさせて戴きましたvv
もう・・・言葉もないとはこのことですねです(TwT)こんな素敵な文を書かれるなんて、アヅハさんの文才には脱帽ですッ!!
ダークなシリアス・・・ルックと坊がせつなすぎです・・・・・・。ルックがすごくすごくかわいいのですがッ!!坊に翻弄されるルックの言葉やしぐさにずっとどきどきしっぱなしだったのですがッ!!(興奮)
もう・・・私アヅハさんの書かれるお話のとりこでございます。(迷惑)
またキリ番を愛の力で踏めると確信して(誤信)、今日も今日とてアヅハさんのサイト様に遊びに伺わせて戴いている私です。
素敵すぎるお話、本当に本当にありがとうございました〜!!!

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アヅハアヤ様の管理なさっているHP→少年宇宙論。