+ サ ン タ ・ サ ン グ レ +






「あたし達、小さい頃からずっと一緒だったよな?」
「あぁ…そうだな」
「…それなのに、なんでこんなことになったんだろな」
「…………」

「なぁ、…香介」
「………ああ、そうだな」






「お前が英雄に連れていかれたのは…半年前だった」
「もう半年も経っちまったか」
「そのときは、すぐに戻ってきて…何事もなかったのに」
「だから実際、何も無かったって言ったろ」
「でもそれからだよ、お前がおかしくなったのは。 あたしとも距離を置くし、いつも何だか遠くを見るような目をしてる」
「そうか? 俺は別にそんなんじゃないぜ」
「じゃあ何があったんだよ?」
「…あ?」
「半年前、英雄にどこかに連れてかれて、何があったんだよ?お前何も言わないじゃないか」

「…別に、だからいつも言ってるだろ、何も無かったって」
「そーやってお前は何も言わないけど、だから何かあったんだって分かるんだろ」
「………………」










 空にはいつも、雲と、変わらない青があった。

 それをつまらなく感じていたあの頃。



 今になってそれがたまらなく愛しいものだったと気付いても、遅い。
















 今までとは違う日常をくれると言った英雄。
 それについて行った自分。
 つまらない日常を捨てて、新しい何かを手に入れられると言う期待を抱いて。
 それなのに、この手が手にしたものは。






 "君達には、私に代わってこの世に復讐してもらう"


 "この呪いは、誰かに解けるかも知れないし、誰にも解けないかも知れない"
 "最も可能性が高いのは私の弟…歩か。 興味があれば探してみればいい"

 "それがこの世が憎しみと哀しみで満たされる前になるか、後になるか"
 "それは私も分からないけれど"




 "ただひとつ言えることは"
 "私はこの世界に、誰一人余すことなく絶望を与えようと思っている"

 "この世界が、私に絶望しか与えてくれなかったように"―――
















 埋め込まれた破壊の衝動は、理屈じゃ計れない。
 それに込められた憎しみの念は、気持ちや理性なんかじゃ抑えられない。











 そう、もう、限界まで来ている。















 殺したくて殺したくて、何もかもを壊したくてたまらない。























 だけど




「―――…香介?」




 いつも隣にいたこの存在だけは




「………んあー…面倒くせぇからイイや、何でもねんだよ」
「………こうすけ…、」


「あたし達、いつから……」
「言うな。 心配すんなって。 別にどこにも行きゃしねぇよ」
「…心配なんかしてねーよ」
「嘘吐け、んな情けねぇ顔して」
「お前がさせてんだろーが!!」
「…悪い、な」

「………バカ。 どこにでも行っちまえよ」
「……ほんと、悪い」



「いいよ、…ただ」
「…ん?」
「お前をそんな風にしたのが英雄なら。 あたしも英雄に連れてってもらえば良かった」
「バカなコト言うんじゃねぇよ」
「分かってるよ、バカだよあたしは。 だってお前なんかを…―――」






















「…………ふぅ」


 腹立たしいくらい、空が青くて広い。
 今ごろ気付いても遅かったんだ。



 すべてを捨ててきた。

 …そう、もしかしたらたった一つのものが、自分のすべてだった。
 それを捨てたんだから。


 もう何も、何も残ってないはずなのに。





「…あー……記憶って消せないもんかね」





 この想いを胸に仕舞ったまま辿るには、この道は残酷過ぎる。






"分かってるよ、バカだよあたしは"

"だって、お前なんかを…―――"




「…あーもう。 くそ、出てくんな」



 捨てた。

 もういらない。


 何も望めないし、
 何もいらない。



 呪われた命が絶えるまで、燻ったままの火を灯し続けるだけ。





 それなのに、 それでも。



 あぁ、こんなにも。













"――香介"







 あのときの、あいつの顔が忘れられない。



















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03/11/06
10/03/03 加筆修正